西野亮廣さんの『夢と金』を読みました。

お金やビジネスについて書かれた本ですが、特に面白かったのが**「価格」と「価値」の考え方**です。
私はこれまで、価格というものを、
「原価がこれくらいだから、この価格になる」
と比較的シンプルに考えていました。
しかし『夢と金』を読むと、価格は原価だけで決まるものではなく、誰に、どのような価値を提供するのかによって大きく変わることが分かります。
特に印象に残ったのが、
- 飛行機は高価格帯の座席があるからエコノミーを安くできる
- 「プレミアム」と「ラグジュアリー」では売っている価値が違う
- ラグジュアリーでは「認知度は高いが、普及度は低い」ことに価値がある
という3つの話です。
今回は、この3つを中心に、会社員としての仕事や株式投資にもつなげて考えてみます。
飛行機をすべてエコノミー席にすると、むしろ高くなる
最も印象に残ったのが、飛行機の座席の話です。
飛行機には、
- ファーストクラス
- ビジネスクラス
- プレミアムエコノミー
- エコノミークラス
など、価格の異なる座席があります。
一見すると、
「ファーストクラスやビジネスクラスをなくして、全席をエコノミーにした方が安くできるのでは?」
と私も思っていました
しかし、本書では逆の考え方が紹介されています。
分かりやすくするために、実際の航空会社とは関係のない架空の数字で考えてみます。
例えば、300人乗りの飛行機を1回飛ばすために、燃料費、人件費、機体の費用、空港使用料などを合わせて1,500万円かかるとします。
ケース①:300席すべてエコノミーの場合
300人全員で1,500万円を負担すると、
1,500万円 ÷ 300人 = 1人5万円
です。
つまり、単純化するとエコノミー1席あたり5万円を負担してもらわなければ、1,500万円を回収できません。
ケース②:ファースト・ビジネスクラスを設ける場合
次に、同じ300人を、
- ファーストクラス:10人
- ビジネスクラス:40人
- エコノミークラス:250人
とします。
仮に、
ファーストクラスを1人50万円。
ビジネスクラスを1人15万円。
とすると、
ファーストクラス:50万円 × 10人 = 500万円
ビジネスクラス:15万円 × 40人 = 600万円
となります。
この50人だけで、合計1,100万円を負担してくれます。
飛行機を飛ばすために必要な1,500万円のうち、残りは400万円です。
これを250人のエコノミー利用者で負担すると、
400万円 ÷ 250人 = 1人1万6,000円
となります。
整理すると、
| 座席構成 | エコノミー客の負担額 |
|---|---|
| 全席エコノミー | 5万円 |
| ファースト・ビジネスあり | 1万6,000円 |
| 差額 | 3万4,000円 |
もちろん、これは考え方を分かりやすくするための単純な仮定です。
実際にはファーストクラスやビジネスクラスは1席あたりのスペースを広く使いますし、食事やラウンジ、サービスなどにも追加費用がかかります。そのため、現実の航空運賃がこの計算通りになるわけではありません。
それでも、ここで重要なのは、
「高い料金を払う人がいることで、安い料金で利用できる人が生まれる」
という構造です。
私はこれまで、ファーストクラスやビジネスクラスは、単純に「お金に余裕のある人が快適に移動するための商品」だと思っていました。
しかし、別の見方をすると、彼らが高い料金を払ってくれていることで航空会社の収益を支え、結果としてエコノミークラスを利用する人の負担を軽くしているとも考えられます。
つまり、
ファーストクラスやビジネスクラスの利用者が、エコノミークラス利用者の運賃の一部を負担してくれている
とも言えるわけです。
この考え方は非常に面白いと思いました。
「高価格の商品=一部のお金持ちのための商品」
と考えてしまいがちですが、高価格の商品を用意することが、結果として低価格の商品を利用する人にもメリットを与える場合があります。
だから、何でも安くすれば消費者のためになるとは限らない。
むしろ、高く買ってくれる人に対して、きちんと高く売ることが、安く利用したい人を守ることにもつながる。
価格に対する見方が少し変わりました。
「プレミアム」と「ラグジュアリー」は似ているようで違う
もう一つ面白かったのが、「プレミアム」と「ラグジュアリー」の違いです。
どちらも「高級」というイメージがありますが、本書ではその性質が異なるものとして説明されています。
例えば、自動車で考えてみます。
トヨタ、BMW、メルセデス・ベンツなどは、基本的には機能を高めることで価格を上げていく世界です。
より安全である。
より速い。
より静かである。
より乗り心地がいい。
より便利な機能が付いている。
こうした「機能」に対して顧客がお金を払います。
この世界では競合商品との比較ができます。
例えば、
「この性能なら500万円は払える。でも800万円なら高い」
と顧客が判断できます。
機能を比較できる以上、最終的には顧客側が価格の妥当性を判断する傾向があります。
これが「プレミアム」です。
フェラーリやランボルギーニは「機能」だけを売っているのか
一方、フェラーリやランボルギーニのようなラグジュアリー商品は少し違います。
もちろん車としての性能は非常に高いです。
しかし、購入者がその「機能」だけに数千万円を払っているとは考えにくい。
ここからは私なりの仮説です。
フェラーリやランボルギーニを所有できるほどの富裕層になると、普段の移動には運転手付きの別の高級車を使い、フェラーリやランボルギーニはコレクションとして所有したり、ガレージや室内に展示したりする人もいるでしょう。
そう考えると、そもそも「移動する」という自動車本来の機能を、それほど求めていない購入者もいるのではないでしょうか。
極端にいえば、ほとんど走らなくても価値が成立する車です。
フェラーリを所有していること。
そのブランドの歴史。
美しいデザイン。
希少性。
ガレージに置いて眺める満足感。
こうしたものまで含めた**「意味」そのものに価値がある**のだと思います。
これは、「移動手段としてどちらが優秀か」という機能比較だけでは説明できません。
だからこそメーカー側が、
「この商品にはこれだけの価値がある」
と価格を提示し、その世界観に共感する人が購入することができます。
つまり、
プレミアムは機能を売り、ラグジュアリーは意味を売る。
そして、
プレミアムは顧客が価格を決めやすく、ラグジュアリーはメーカーが価格を決めやすい。
フェラーリやランボルギーニが「走らなくても価値を持つ」と考えると、この違いが非常に分かりやすいと感じました。
価値を高めるには「認知度-普及度」が重要
さらに印象的だったのが、ブランド価値と認知度・普及度の関係です。
ラグジュアリーブランドは、単に「知られていない希少品」を目指しているわけではありません。
重要なのは、
多くの人が知っているのに、持っている人は少ない
という状態です。
その代表例として考えられるのが、ルイ・ヴィトンです。
高級ブランドでありながら、百貨店の1階など非常に目立つ場所に店舗を構えています。
買わない人にも、
「ルイ・ヴィトンというブランドがある」
「高級なブランドだ」
と知ってもらう。
つまり、認知度を上げるわけです。
一方で、商品価格は高いため、誰もが簡単に所有できるわけではありません。
すると、
認知度は高いけれど、普及度は低い
という状態が生まれます。
ここにブランド価値が生まれるという考え方です。
例えば、誰も知らないブランドの100万円のバッグを持っていたとします。
本人が気に入っていればもちろん価値はあります。
しかし、「所有することそのものが生み出す意味」という点では、多くの人が知っているブランドとは違います。
反対に、
「ほとんどの人が知っている」
「多くの人が憧れている」
「でも、実際に持っている人は少ない」
という商品であれば、所有すること自体に価値が生まれます。
だからラグジュアリーブランドにとって重要なのは、単純にたくさん売ることではありません。
認知度は高める。しかし、普及させすぎない。
このバランスがブランド価値を維持するうえで重要なのだと思います。
「安くすることが正義」とは限らない
『夢と金』を読んで、自分の中で特に変わったのは、高価格に対する見方でした。
日本では、
「安くて良いもの」
が評価されやすいと思います。
もちろん、企業努力によって価格を下げることは素晴らしいことです。
私自身、仕事では効率化や生産性向上について考える機会があります。
同じ価値をより少ないコストで提供できれば、生産性は上がります。
ただし、コストを削るだけでは限界があります。
飛行機の例で考えると分かりやすい。
エコノミーをあと1,000円安くするために、さらにコストを削る方法を考えることもできます。
しかし、それとは別に、
「50万円でも買いたいと思ってもらえる商品をつくれないか?」
と考える方法もあります。
こちらはコスト削減とはまったく違うアプローチです。
企業も同じで、高い利益率の商品があるからこそ、新しい商品を開発したり、従業員に給料を払ったり、設備投資をしたりできます。
重要なのは、
「どうやって安くするか」だけではなく、「どうすれば高くても買ってもらえる価値をつくれるか」
を考えることなのだと思います。
これは会社員の仕事にも当てはまる
この考え方は、商品だけではなく会社員の仕事にも当てはまる気がします。
仕事をしていると、
「どうすれば作業時間を減らせるか」
「どうすればコストを削減できるか」
という効率化に意識が向きます。
もちろん効率化は重要です。
ただ、それだけでは基本的に「機能」の競争です。
同じ仕事をより速く、より安く、より正確に行う。
これはプレミアムの世界に近いのかもしれません。
一方で、
「この人に任せたい」
「この人だから、この仕事をお願いしたい」
と思ってもらえる状態になれば、単純な機能比較から少し離れることができます。
例えば、資格やスキルだけなら、自分より優秀な人は世の中にいくらでもいます。
しかし、これまで経験してきた仕事、失敗、得意分野、人とのつながりなどを組み合わせれば、その人にしかない価値が生まれます。
会社員としての市場価値を上げることも、単純にスキルを増やすだけではなく、自分にしかない経験や意味をどうつくるかが重要なのかもしれません。
投資でも「価格決定権」を持つ会社は強い
そして、この考え方は株式投資にもつながります。
私が企業を見るときは、PERやPBR、配当利回り、自己資本比率などの数字を重視しています。
ただ、それと同時に、
「この会社は自分で価格を決められるのか?」
という視点も重要だと感じました。
競合より10円高くしただけで顧客が離れてしまう会社と、値上げしても顧客が買ってくれる会社では、当然後者の方が強い。
ブランド、技術、特許、ネットワーク効果、希少性などによって価格決定力を持つ企業は、原材料費や人件費が上昇しても、それを販売価格へ転嫁しやすくなります。
さらに『夢と金』の考え方を当てはめるなら、
「良い商品をつくっている会社か?」
だけでなく、
「機能以外の意味まで売ることができている会社か?」
という視点で企業を見るのも面白いと思います。
長期投資では、こうした価格決定力を持つ企業を見つけることも大切だと感じました。
まとめ:価格を下げるのではなく、価値を上げる
『夢と金』を読んで印象に残ったのは、「お金を稼ぐ方法」というよりも、価値と価格の関係でした。
飛行機では、高価格帯の座席があることで、エコノミークラスを安く提供できる。
プレミアムは機能を売り、ラグジュアリーは意味を売る。
そしてラグジュアリーでは、認知度を高めながら普及度を抑えることで、
「多くの人が知っているけれど、持っている人は少ない」
という価値をつくる。
これらに共通しているのは、
価格を下げることだけが、顧客への価値提供ではない
ということだと思います。
安くする努力だけでは、いつか限界が来ます。
それよりも、
「高くても欲しい」
「あなたから買いたい」
「このブランドだから欲しい」
と思ってもらえる理由をつくる。
これはビジネスだけではなく、会社員としての自分の価値や、株式投資で企業を見るときにも使える考え方だと思います。
価格を下げることを考える前に、価値を上げることを考える。
『夢と金』を読んで、そんな当たり前のようで難しいことを改めて考えさせられました。